アパートには相続税の節税効果があります。
相続税対策としてアパートを既に建築したという方もいらっしゃるでしょう。
あるいは、これから建築を検討しようとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

どうしてアパートが節税になるのか。
それはアパートの相続税評価額が時価よりも低く計算されやすいからなのです

今回は、そんなアパートの相続税評価額計算の仕組みを解説し、アパートがなぜ相続税対策になるのかと、メリットだけに注目して失敗してしまうことの無いように、アパートを利用した相続税対策の注意点についても解説していきたいと思います。

土地や建物はそもそも相続税評価額が低い

相続税は相続財産の評価額に税率を乗じて計算されます。
相続財産の評価とは、言い換えれば財産をお金に換算することです。
例えば銀行預金1億円をお金に換算するといくらでしょうか。
1億円ですよね。
したがって、銀行預金1億円の相続税評価額は1億円ということになります。

それでは、土地や建物といった不動産の評価はどうでしょうか。
相続が発生したからといって、すぐに不動産を売却してしまうとは限りませんよね。
実際に売ってみないことには不動産が実際にいくらのお金に換金されるかはわかりません。高い報酬を支払って不動産鑑定士に鑑定を依頼するわけにもいかないでしょう。

どうやって適正な評価をすれば良いのでしょうか。

結論として、相続税法では一定の評価のルールを定め、その方法にしたがって計算した金額を土地や建物の評価額としています。

ここで重要なのは、その評価ルールにしたがって評価を行った場合、一般的に、実際に取引されるであろう金額よりも低い金額になるのです

それではその土地、建物の相続税評価の方法についてそれぞれ簡単に見ていきましょう。

土地の相続税評価の方法は?

土地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類の方法があります。
路線価とは、国税庁が設定している、市街地にある道路に面する土地の1㎡あたりの評価額のことです。
この道路に面する土地は1㎡あたりいくらですよ、というように道路ごとにその評価単価が設定されているのです。

そして、路線価方式による評価額は概ね時価の80%になるのです

また、路線価が付いていない地域の場合は倍率方式で評価することになります。
倍率とは国税庁が地域、地目(土地の種類)ごとに定めたものです。
倍率方式では、土地の固定資産税評価額にこの倍率を乗じて相続税評価額を算出します。
なお、宅地の倍率はほとんどの場合1.1倍となっています。
また、固定資産税評価額は土地の時価の70%程度になるように設定されていますので、相続税評価額は70%の1.1倍ということになり、これまたおよそ時価の80%程度となるのです。

建物の相続税評価の方法は?

建物の相続税評価額は固定資産税評価額をそのまま使います。つまり相続税評価額=固定資産税評価額となります。
固定資産税評価額はその建物の建築の際に、市区町村が設定しますが、この金額は概ね実際の建築コストの60%程度となります。
したがって、相続税評価額も時価の60%程度となるのです

貸している不動産は安くなる

不動産の相続税評価額はそもそも安いよ、ということは上述したとおりですが、
貸している不動産はそこからさらに安くなるのです。

なぜ貸していると安くなるのでしょうか?
簡単に言うと、
土地や建物を他人に貸している場合には、その不動産の所有者はその不動産を自由に使用することが出来ないからです。
借りている人を不当に追い出して好きに使うなんてことは出来ないですよね。
したがって、自分で好きなように使える土地と比べてその分だけ評価が下がるというわけです。

結論を先にお伝えすると、アパートの土地は、概ね20%程度評価が下がり、アパートの建物の方は30%評価が下がります

それではその土地と建物のそれぞれについてどのように計算されるのか見ていきましょう。

賃貸アパートの土地の評価減

アパートの土地のように賃貸用の建物を建てている土地を「貸家建付地」と言います。

貸家建付地の評価額は次のとおり算出します。

貸家建付地の評価額=自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合)

自用地の評価額というのは上述の「路線価方式」や「倍率方式」で計算した土地の評価額のことです。概ね時価の80%程度でしたね。

借地権割合は国税庁が地域ごとに定めた割合であり、60%~70%であることがほとんどです。また、借家権割合の方は、一律で30%となっています。
したがって、借地権割合×借家権割合は概ね20%程度ということになります。

ということは、貸家建付地の評価額は上記の式により、自用地の評価額×(1-0.2)、つまり自用地の評価額のさらに80%程度の評価額になるのです。
つまり時価の64%(80%×80%)ということになりますね

なお、アパートに空室がある場合、その部屋部分については自用地として評価することになりますので注意が必要です。

賃貸アパートの建物の評価減

アパートの建物の評価額については次のように算出します。

貸家(アパート)の評価額=自用家屋の評価額×(1-借家権割合)

自用家屋の評価額は上述のとおり固定資産税評価額と同じ金額です。建築コストの60%程度の金額でしたね。
借家権割合は一律で30%ですので、
貸家の評価額は自用家屋の評価額×(1-0.3)、つまり自用家屋の評価額のさらに70%程度の評価額になるのです。
つまり時価の42%(60%×70%)ということになりますね。だいぶ安くなりましたね。

なお、土地の評価と同様に、アパートに空室がある場合、その部屋部分については自用家屋として評価することになりますので注意が必要です。

小規模宅地等の特例でさらに安く!

ここまでのご説明でも十分に安くなっているとお思いだと思いますが、
まだまだこれだけではありません。

小規模宅地等の特例をご存じでしょうか。

小規模住宅地等の特例とは簡単に言うと、
建物や構築物の敷地として使われている土地のうち、一定の要件を満たす土地の相続税評価額を減額できる特例です。

アパートの土地の場合は、200㎡を限度として50%の減額が可能です
なお、亡くなる前3年以内に賃貸を開始した場合は特例の適用を受けられませんので注意が必要です。

結局アパートでいくら相続税が減るのか

アパートがなぜ相続税対策になるのか理解いただけたでしょうか。
現金の相続税評価額が額面金額そのままであるのに対して、
不動産、とくに貸している不動産の相続税評価額は時価よりもかなり安くなるのです。

例えば、1億円の現金でアパートを購入したとして、アパートの評価額が時価の50%だとしたらどうでしょう。
この場合、相続財産が現金からアパートに変わって、その評価額は1億円から5,000万円に減少することになります。
つまり相続財産を5,000万円減額する効果があるのです。

相続税の税率は相続財産の総額や相続人の人数によって変動しますので一概には言えませんが、仮に20%だとしたら、5,000万円×20%=1,000万円の税金を減らすことができるのです

なお、1億円の借り入れを行ってアパートを購入したとしても同じ効果が得られます。
借金1億円は負の財産としてマイナス計上ができるからです。
例えば、1億円を借り入れてアパートを購入したとして、アパートの評価額は時価の50%としましょう。
この場合、アパートの評価額は5,000万円で借金1億円はマイナス1億円ですので、合計でマイナス5,000万円という計算になります。
このマイナス5,000万円は預金や有価証券、自宅不動産など、他の相続財産と合算されますので、自己資金で購入した場合と同じように相続財産を5,000万円減額する効果があるのです。

アパートを使った相続税対策の注意点

アパートの節税効果はご理解いただけたのでは無いでしょうか。

かなりの効果がありますよね。

それなら迷わずアパートを建てた方が良いのでしょうか。

最後にアパートを使った相続税対策の注意点を見ていきましょう。

あくまで事業と考えるべき

アパート購入は相続税対策であると同時に、事業でもあります。

アパート経営自体の採算が取れなければ、せっかく相続税を減らせてもその効果は限定的になってしまいますし、場合によっては相続税の節税分を上回る経営赤字ということもあり得るでしょう
また、相続発生後に相続人がアパートを引き継いで経営を行っていくのか、もしくは売却するのかといった事で相続人が迷ってしまわないように、生前に家族を含めて検討しておく必要があるでしょう。

空室リスクがある

アパートに空室がある状態で相続が発生してしまうと、その空室部分は自用の評価になってしまい、貸している不動産の評価の減額効果が薄れてしまうのでした。
同時に、アパート経営という意味でも、空室は家賃収入が減ってしまいますので、資金繰りが苦しくなってしまいます。

相続税が払えない場合もある

現金を使ってアパートを購入した場合、相続税の納税資金が不足してしまうリスクがあります。アパートを購入する際には、将来の相続税の節税効果やアパート経営の資金繰りだけでなく、相続税の納税資金についてもしっかりとシミュレーションしておくことが重要です。

しかし、それでも空室による家賃収入の減少によって想定どおりのキャッシュを得られないなど、ふたを開けてみたら納税資金が足りないということは起こりえるでしょう。

まとめ

アパートは相続税を大幅に減らす効果があります。
一方で、あくまでアパート経営という事業でることを忘れてはいけません。
アパートを使った相続税対策は、相続税の節税の面と、相続前後のアパート経営の収支の面の両面からしっかりと検討していくことが重要です

とは言え、そのような検討を自分で行うことは大変困難です。
迷わずに相続専門の税理士に相談するようにしましょう。

当事務所は無料相談も承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

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