相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度は、受贈者の選択により、一般の暦年贈与制度に代えて、贈与時に2,500万円を超える部分についてだけ贈与税を支払い、その後、相続が起きた場合に贈与財産と相続財産とを合算した価額を基に相続税を計算する制度です。
相続税を計算する際には、2,500万円を超えて支払った贈与税額がある場合は控除することになります。
2,500万円までの贈与税が無税になるということに目が行きがちですが、相続発生時には相続税として課税がされますので、税が優遇されるというわけではなく、税を先送りできる制度という表現が正しいでしょう。
相続時精算課税制度の趣旨は、生前の贈与を容易にして、早期に高齢者の保有する資産を子や孫世代に移転していくということにあります。
相続税精算課税制度は選択制
相続時精算課税制度は、贈与税暦年課税制度との選択制です。
なお、暦年課税制度は、贈与税の通常の課税制度で、毎年110万円までの非課税枠があります。
相続時精算課税制度の選択制には次の特徴があります。
①選択は贈与者である父母または祖父母ごとに可能です。
例えば父からの贈与は相続時精算課税制度を選択し、母からの贈与は通常の暦年課税制度を選択するということができます。
②相続時精算課税制度を選択した場合、相続時まで相続時精算課税制度が継続して適用されます。
一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税制度が適用されません。
相続時精算課税制度の適用対象者
相続時精算課税制度の適用対象者は、贈与者については60歳以上の親または祖父母、受贈者は20歳以上(2022年4月以降は18歳以上)の贈与者の子または孫です。
各年齢は、その年の1月1日現在で判定しますので注意が必要です。
相続時精算課税の対象財産、回数制限
相続時精算課税制度の適用にあたって、贈与財産の種類、贈与金額、贈与回数の制限はありません。
贈与税、相続税額の計算方法
相続時精算課税制度を選択した場合の贈与税、相続税の計算は次のとおりです。
①贈与税額の計算
2,500万円までは贈与税非課税です。
2,500万円を超過する部分は一律20%の税率で課税されます。
②相続税額の計算
贈与者の相続時に、相続時精算課税制度の適用以後の贈与により取得した財産の「贈与時における価額」と通常の相続財産の価額を合計し、相続税額を計算します。
2,500万円を超過し、すでに支払った贈与税額がある場合は、相続税額から控除します。
なお、相続税額から控除しきれない贈与税額は還付を受けられます。
相続時精算課税制度の適用手続
相続時精算課税制度を選択する受贈者は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に所轄税務署長に対して贈与税申告書および「相続時精算課税選択届出書」を提出します。
なお、相続時精算課税選択届出書に添付が必要な書類は次のとおりです。
①受贈者の戸籍謄本または抄本など
受贈者の氏名や生年月日、そして贈与者との関係がわかるものを提出します。
なお、これらは受贈者が相続時精算課税の適用対象者であることを確認するために必要な書類です。
②受贈者の戸籍の附票の写しなど
受贈者が20歳に達した時以後の住所などを証明する書類です。
贈与税の申告は受贈者の住所地所轄の税務署へ行いますので、税務署は受贈者の住所の変遷を把握するこで、過去の贈与税の申告状況を確認することができます。
③贈与者の住民票または戸籍の附票の写しなど
贈与者の氏名、生年月日、および贈与者が60歳に達した時以後の住所などを証明する書類です。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
相続時精算課税制度は暦年課税制度との選択制です。
相続時精算課税制度を選択すれば暦年課税制度は使えなくなってしまいます。
したがって、相続時精算課税制度の適用がメリットなのかデメリットなのかは、暦年課税制度との比較で検討する必要があります。
相続時精算課税制度と暦年課税制度の比較
区分 | 暦年課税制度 | 相続時精算課税制度 |
適用対象者 | 制限なし(特例贈与または一般贈与) | 60歳以上の親または祖父母から20歳以上(2022年4月以降は18歳以上)の子または孫へ贈与 ※事業承継税制の特例措置の適用を受ける場合、60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 |
届出 | 不要 | 必要 一度選択すれば相続時まで継続適用 |
非課税枠 | 110万円(毎年) | 2,500万円まで(複数回の申告に分かれてもOK) |
税率 | 10%~55% | 一律20% |
相続時の精算 | なし(相続開始前3年以内の贈与財産はあり) | あり(贈与時の評価額で合算、納付済み贈与税額は相続税額から控除可能) |
両者を比較したメリット | 基礎控除の110万円を毎年活用できる | ・2,500万円を超えても20%の税率であるため、収益物件の贈与などの多額の贈与をしやすい。 ・贈与時の評価額で合算されるため、今後値上がりが予想される財産の贈与は節税効果がある。 |
両者を比較したデメリット | 贈与金額によっては最高55%の税率が適用される | ・110万円以下の贈与でも申告が必要 ・相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、その土地に小規模宅地等の特例を適用することができない |
比較表をご覧いただくとおり、相続時精算課税制度にも、暦年課税制度にもメリット・デメリットがあります。
相続時精算課税制度を選択すれば、メリットも得られますが、同時に暦年課税制度のメリットを失うことになります。
したがって、どちらを選択した方が有利になるかどうかはケースバイケースで、得られるものと失うものをそれぞれシミュレーションし、天秤にかけて判断する必要があります。
相続時精算課税の節税効果
冒頭にも述べましたが、相続時精算課税には一般的に相続税の節税効果はありません。
結局、相続時に相続税が課税されるからです。
相続税の節税という意味では、暦年課税制度の毎年110万円の非課税枠を使った方が効果が出る可能性があります。
以下の計算例で確認してみましょう。
【前提条件】
相続財産:3億円
相続人:配偶者なし、子供1人
現金の贈与を行ってから10年後に相続が発生。
暦年課税制度 | 相続時精算課税制度 | 贈与しない | |
贈与時の税額 | 【年400万円を10年間贈与】 ((400万円-110万円)×15%)-10万円=33万5千円 33万5千円×10年間=335万円 | 【4,000万円を贈与】 4,000万円-非課税枠2,500万円=1,500万円 1,500万円×20%=300万円 | 0円 |
相続財産 | 相続開始前3年間贈与財産1,200万円+相続発生時相続財産2億6,000万円=2億7,200万円 | 相続時精算課税制度の利用贈与財産4,000万円+相続発生時相続財産2億6,000万円=3億円 | 3億円 |
相続税額 | 2億7,200万円の相続税額=7,920万円 7,920万円-前3年間贈与税33万5千円×3=7,819.5万円 | 3億円の相続税額=9,180万円 9,180万円-払い済み贈与税額300万円=8,880万円 | 9,180万円 |
贈与税・相続税合計 | 贈与税335万円+相続税7,819.5万円 =8,154.5万円 | 贈与税300万円+相続税8,880万円=9,180万円 | 9,180万円 |
このケースでは、暦年課税制度を選択することで、9,180万円-8154.5万円=1,025.5万円の節税が可能となる一方で、相続時精算課税制度を利用しても贈与をしない場合と贈与税・相続税合計金額は同じになり、つまり節税効果は出ないということがわかります。
相続時精算課税を利用した方が良い場合
相続時精算課税制度は、上述のとおり、一般的に相続税の節税対策にはなりません。
また、相続時精算課税制度を選択した方がいいかどうかも何をメリットに感じるかどうかに依りますので一概には言えません。
そのような前提の中で、一般的にこのような場合に相続時精算課税を選択される人が多い、という場合を紹介していきます。
一括でまとまった額の財産を贈与したい場合
子や孫が自宅を建てたい、または事業を始めたいという場合は、一時に多額の資金が必要になります。
このように損得に関係なく多額の贈与が前提であれば、非課税枠が年110万円の暦年課税制度よりも、相続時精算課税制度を選択して2,500万円の非課税枠を利用するほうが、贈与時の税負担が少なくメリットがあります。
なお、相続時精算課税制度と住宅取得等資金の贈与の非課税制度は併用が可能です。
住宅取得等資金の非課税制度とは、直系尊属である両親、祖父母などから住宅取得資金として贈与を受けた場合に一定の金額が非課税となる制度です。
この制度は、単独で使うことも、相続時精算課税制度と組み合わせて使うことも可能で、2023年(令和5年)12月31日までに行われた贈与が対象です。
今後値上がりが予想される財産の贈与
相続時精算課税を適用した贈与財産は、相続税の計算上、「贈与時の評価額」で相続財産の額と合計されて相続税の課税対象になります。
したがって、今後値上がりが予想される財産を相続時精算課税を選択して贈与することで、値上がりする前の評価額で相続税を計算できることになります。
相続時精算課税が一般的には相続税の節税にはならないと述べたところですが、このケースでは、もし予想通り値上がりすればという条件付きではありますが、相続税の節税効果が出る可能性があります。
相続税が発生しない場合
相続時精算課税を適用して贈与された財産を相続財産に合計しても、その合計額が基礎控除額以下であるなら相続税は課税されません。
この場合は、暦年課税制度の110万円の非課税枠を使った相続税の節税は意味がありません。
最初から相続税がかからないからです。
したがって、暦年課税制度を使った相続税の節税が使えなくなることを心配せずに相続時精算課税を選択することができます。
相続税が発生しない場合には、相続時精算課税を選択して非課税で110万円を超えた生前贈与を行うことで、相続発生前の早期の段階で資産を子や孫世代に移転することが容易なのです。
まとめ
相続時精算課税制度は2,500万円の贈与税の非課税枠があるとは言え、結局は相続発生時に精算されることになりますので、節税効果が期待できる制度ではありません。
しかし、例外的に節税効果が出る場合や、節税以外のメリットを享受できるケースも多くあります。
相続時精算課税を選択することが有利になるのかどうかはケースバイケースですので、必ず相続専門の税理士に相談しながら進めるようにしましょう。
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